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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)4718号 判決 2000年11月21日

原告

寺西一男

被告

田川誠喜

主文

一  被告は、原告に対し、金一二九万七九四八円及びこれに対する平成一一年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一七四万八一七四円及びこれに対する平成一一年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が被告に対し、民法七〇九条の不法行為責任に基づき、後記交通事故により生じた損害及びこれに対する本件交通事故の翌日以降民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを請求した事案である。

一  争いのない事実等(特に証拠を挙げたもの以外は当事者間に争いがない。)

1  交通事故の発生

被告と原告との間で、下記交通事故(以下「本件交通事故」という。)が発生した。

発生日時 平成一一年八月一二日午前八時二五分ころ

発生場所 大阪府堺市金岡町六九番地先中央環状線上

原告車両 普通乗用自動車(なにわ五八は五三一四)

被告車両 普通貨物自動車(京都八八あ四二四〇)

事故態様 原告は、原告車両を運転し、本件道路を東方から西方に向かって進行中、信号機により交通整理の行われた交差点を右折するため、先行車両二台とともに交差点内で停止した後、右折矢印信号に従って先行車両に続いて右折を開始したところ、同交差点に赤信号を無視して西方から東方に向かって直進してきた被告運転の被告車両が、原告車両の左前部に衝突したもの。

2  原告は、大阪市住吉区苅田所在の医療法人三橋医院において、胸部捻挫の診断を受け、平成一一年八月一二日から同年九月一〇日まで同病院で治療を受けた(診療実日数一二日間)。さらに、同区我孫子所在のあびこ病院において、外傷性頸椎捻挫の診断で、同月一一日から同年一〇月一五日まで治療を受けた(診療実日数二三日間。甲第二号証の二、乙第四号証、第九号証の一及び二)。

3  本件交通事故により、原告車両は全損となった。

二  争点

被告は、本件交通事故による原告の傷病程度が軽微なものであること、三橋医院とあびこ病院の診断名が一致していないことなどから、あびこ病院において治療を受けた傷病と本件交通事故との因果関係は認められず、同病院における治療には必要性が認められないと主張するほか、休業損害、物損等の損害額についても争う。

第三争点に対する判断

一  被告の損害賠償責任

甲第二号証の一、二、乙第一号証、第二号証の一、第三号証の一、第四号証、第八号証の一、二、第九号証の一、二、第一一号証、原告本人によれば、以下の事実が認められる。

1  原告は、本件交通事故の際、シートベルトをして原告車両を時速一〇キロメートル程度の速度で運転して右折進行中、自車左前側部に被告車両がかなりの速度で衝突した際、強い衝撃により身体を捻るような力が加わり、事故直後から胸部に強い痛みを感じ、さらに、事故後二日目くらいからは背部や右上腕部にも痛みが出るようになって、平成一一年八月一八日、三橋医院において、胸部捻挫で事故日から一か月間の加療を要する旨の診断を受けた。なお、原告車両は、衝突時の衝撃でボンネット付近が右に大きく振れるような状態で大破し、全損となった。

2  原告は、三橋医院に前記の期間通院して治療を受け、内服薬や湿布剤を処方され、胸部の痛みは軽快したものの、背部及び右上腕部の痛みがとれなかったため、自らの意思であびこ病院に転医し、平成一一年九月一一日、外傷性頸椎捻挫で同日以降なお約四週間の加療を要する旨の診断を受け、前記の期間同病院に通院して、痛み止めの注射や牽引その他の理学療法を中心とする治療を受け、同年一〇月一五日には治癒した。

前記のとおり、本件交通事故は、被告が赤信号を無視して交差点内に進入したことにより発生したものであることは当事者間に争いがなく、上記事故態様によれば被告に過失があることは明らかであるから、被告は、本件交通事故により原告の被った損害を賠償すべき義務を負う。そして、上記のとおり認定した本件交通事故による衝撃の方向及び程度、通院状況の連続性、治療内容及び治療期間等を総合勘案すれば、あびこ病院における通院治療は、本件交通事故により原告の被った傷病との間に相当因果関係があるものと認定するのが相当である。

被告は 三橋医院とあびこ病院の診断名が異なることや、治療が長期に亘っていること、あびこ病院で行われたジャクソンテスト、スパーリングテスト等の結果に異常が認められていないことなどから、同病院における治療は本件交通事故と因果関係がないと主張するが、原告が痛みを訴えた胸部、背部及び右上腕部は比較的近接した部位であるから、同一の衝突の衝撃によってこれらの部位に傷病が発生したとしても特段不自然であるとは言えないし、その時々で最も強く痛みの現れた部位によって、医師がその症状の発生原因についての理解を異にし、異なる診断名を付けることは考えられないことではないこと、約二か月弱の治療期間は、車両が大破するほどの衝突の衝撃があった本件交通事故においては、治療の相当性を欠くほどに長期間であるとまでは言えないこと、ジャクソンテストやスパーリングテストは、神経根症状の有無を調べる検査であるから、これらの結果に異常がなかったとしても、頸椎捻挫の診断と矛盾するものではないことに鑑みると、被告の主張は理由がない。

二  原告の損害(括弧内は原告請求額)

1  治療費(六万八二二五円) 六万八二二五円

甲第三号証の一ないし二三によれば、原告は、あびこ病院における治療費(文書料を含む。)として上記請求額を支払ったことが認められる。前記認定のとおり、同病院における治療に要した費用は、本件交通事故と相当因果関係のある損害と認められる。

2  薬剤費(五六六〇円) 五六六〇円

甲第四号証の一及び二によれば、原告は、治療期間中、薬剤費として上記請求額を支払ったことが認められる。

3  休業損害(七七万一六五二円) 五〇万四〇六三円

甲第七号証、第八号証、第九号証の一及び原告本人によれば、原告は、本件交通事故当時、二人の子とともに寺西電気商会の屋号で住宅屋内の電気設備工事等を業として営んでいたこと、原告は、前記三橋医院及びあびこ病院への通院期間中は、背部、右上腕部等に痛みがあり工事作業に支障があったため休業し、知人に応援を頼んだこと、あびこ病院通院時には前記のとおり少なくとも胸部の痛みは軽快していたこと、同病院における治療の終了した平成一一年一〇月一五日の数日後には仕事に復帰したこと、同病院における通院治療はそのほとんどが午後七時ころになされていること、原告の平成一〇年度の営業所得は四五四万二八六四円であったことが認められる。

上記事実によれば、三橋医院への通院期間中は、本件交通事故後約一か月間という時期からして、完全に休業する必要性があったものと認めることができるが、あびこ病院への通院期間中については、上記の諸事情を総合勘案すれば、休業により発生した損害の内、本件交通事故と相当因果関係を有するのは三割程度と解するのが相当である。

そうすると、事故前年の所得に基づき、その日割額につき、三〇日間は全額を、三五日間は三割相当額を計算すると、下記のとおり五〇万四〇六三円となる。

(計算式)

4,542,864÷365=12,446

12,446×30+12,446×0.3×35=504,063

4  傷害慰謝料(三三万円) 三三万〇〇〇〇円

前記通院期間に照らすと、原告が通院による慰謝料として請求する上記金額は、相当な額であるということができる。

5  物損(五七万二六二八円) 三九万〇〇〇〇円

<1> 車両損害(三〇万円) 二六万〇〇〇〇円

原告車両が全損となったことは当事者間に争いがなく、全損の場合の車両損害額は事故当時の車両価格と見るべきであるから、乙第五号証ないし第七号証により、その価格は二六万円と評価するのが相当である。

<2> 事故車引き揚げ費用等(四万六二五〇円) 三万〇〇〇〇円

甲第五号証の一及び二によれば、原告は、原告車両の引き揚げ費用として二万円を、保管料として二万六二五〇円を支払ったことが認められる。これらの内、事故車引き揚げ費用に関しては本件交通事故と相当因果関係のある損害と認めることができるが、保管料については保管期間が明確でなく、一定期間経過後は廃車手続きを取ることによりその負担を免れることが可能であったと考えられることから、一万円の限度で認めることとする。

<3> 代車費用(一二万円) 一〇万〇〇〇〇円

甲第五号証の一、二、乙第一一号証、第一二号証の一、第一六号証の一及び原告本人によれば、原告は、平成一一年八月一二日から同年九月三〇日までの五〇日間、一日当たり四〇〇〇円で代車を借り受け使用したこと、被告加入の共済組合及び被告代理人は、原告に対し、原告車両は経済的に全損と評価されるから三〇万円を支払う旨、また、代車使用は平成一一年八月三一日までの二〇日間に限り認め、それ以後は認められない旨を原告に伝えていたが、これに対し、原告は車両の全損評価に納得せず、原告車両を現状に復するか若しくは同等の車両を現物で提供するよう固執したため、代車使用期間につき合意のないまま原告は上記期間代車を使用し続けたこと、原告は本件原告車両以外にも業務用に二台の貨物自動車を保有していたが、これらは必ずしも本件原告車両と同様の得意先回り等の用途には適さなかったことの各事実が認められる。以上の事実を総合考慮すると、本件においては、原告が実際に支出した代車費用の五割に相当する一〇万円をもって、代車費用としての損害と認めるのが相当というべきである。

<4> 定期検査費用等(一〇万六三七八円) 〇円

甲第六号証の一ないし四によれば、事故三か月前の平成一一年五月一二日、原告が車両点検・整備費用として五万二二六九円、車検法定費用等として六万九六五〇円(内訳 自賠責保険料二万七六〇〇円、自動車重量税二万五二〇〇円、自動車検査登録印紙代一一〇〇円、検査代行料(消費税含む)一万五七五〇円)の合計一二万一九一九円を支出したことが認められるが、原告は、本件交通事故で原告車両が全損となり以後使用できなくなったことに伴いこれらの費用が無駄になったとして、車検残期間に応じた日割額を本件交通事故による損害と主張し請求している。

しかしながら、原告の上記支出額中、車両点検・整備費用については、車両が安全な走行性能等を有していることを前提とする前記車両時価額の評価に含まれているものと解するのが適当であるから、前記車両損害と別個独立に評価するのは相当でないというべきである。

また、自賠責保険料については、車両の滅失等により抹消登録を受けた場合には保険契約者の申し出により解約することができ、その場合、解約保険料表に従って保険料の返還を受けることができる(自賠法二〇条の二、自賠責保険約款一〇条一項、一三条二項)から、車両が滅失させられた場合にも納付済みの保険料につき損害の発生を観念し難いこと、自動車重量税については、車両が滅失した場合にも税の還付を受けることができないが、これは自動車重量税が、一定期間車両の所有を継続することに対して課税するのでなく、自動車につき車検を受けるという一回的な行為に対して課税するものであり、たとえその後車両が滅失しても課税の根拠が失われないことによるものと解されるから、かかる税法の趣旨に鑑みれば、車両を滅失させた者に対し税の日割相当額を損害として請求しうるものと解すべき根拠は見出しがたいこと、検査代行料(消費税を含む。)は、車検手続代行者に対する報酬であって、車検を受けるに当たって必ずしも必要不可欠な費用ということはできないこと、自動車検査登録印紙代については、車検残存期間に応じた価値が残存していると見る余地がないではないが、本件においてはその額が極めて低額であることからすれば、むしろ、車両時価額の評価中に包摂されているものと見ても差し支えないと考えられることによれば、原告の主張する車検法定費用等としての六万九六五〇円についても、本件交通事故による損害と認めることはできないというべきである。

以上損害額合計 一二九万七九四八円

三  結論

以上の次第で、原告の請求は、被告に対し金一二九万七九四八円及びこれに対する平成一一年八月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 福井健太)

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